日本経済新聞北海道版
廃校に工房、交流拠点に
赤い屋根に黄色い壁。木造ならではのぬくもり。札幌市内で工房『旅する木』を構えていた家具職人、
?須田修司さんの眼前に、夢に描いた通りの校舎が広がっていた。「ひと目でここだ、と思った。」?
廃校に工房を作り、家族連れが楽しめる場所にーー。こんな思いを抱いていた須田さんが、石狩管内
?当別町の東裏小学校を訪れたのは一年半前。廃校済みか、廃校予定の候補を探すうち、理想の校舎に巡り
?会った。東裏小が百年を超える歴史に膜を降ろしたのは昨年3月末。地域から子供たちの元気な声が消えた。
?「日暮れが早い冬場、校舎の明かりに皆ほっとした。母校がなくなるのはやはり寂しい。」農場経営の大塚
?利明さんは振り返る。
? 廃校後の活用策を考えようと、大塚さんは地域の有志らと研究会を結成。そんな矢先に、旧校舎に工房を
?開きたいと、町などに働きかけていた須田さんと出会う。意気投合し、入居が決まるまでに時間はかからな?
かった。家具工房は昨年11月、旧体育館に移転。教室だった一室にショールームも開いた。「家族が一日?
ずっと過ごせる場所にしたい」。今後、大人向けの本格的な木工教室を始め、家具作りの楽しさや難しさを?
体験してもらう。子供には木のおもちゃのぬくもりに親しめる「木育」のスペースをつくる。須田さんの妻が
?地元産の農産物をふんだんに使ったカフェを始める計画もある。
? 研究会は昨年7月、町や、民間団体を巻き込んだ「当別町田園文化創造研究会」へと発展。大塚さんが会長
?に就いた。農林水産省の補助事業にも選ばれ、計画作りが始動。まず、家具工房を一つの核に、地域の資源を
?発信する拠点とする方向が決まった。工房と並ぶ柱に浮上したのが、大塚さんも栽培を手がける「亜麻」だ。
?当別は札幌からほど近いが、豊かな自然が残り、農業も盛んだ。亜麻の生産量は年7トンと全国一を誇り、?東裏
地区は町内の耕地の8割を占める。道内で繊維用に盛んに栽培されていた亜麻だが、化学繊維に押され40?年程
前姿を消した。復活は8年程前。札幌市内の企業が種を搾った油からサプリメントを開発。当別を中心に?改めて
栽培が広がった。
? 初夏には亜麻畑一面が薄紫色の花で染まり、観光資源としても注目を集め始めた。この花の最盛期に合わせ?
たイベントに旧校舎を生かす。亜麻の歴史や美しさなどを伝える博物館を開くほか、搾油場を誘致する計画だ。
?亜麻以外の産品の直売所も設ける。
? 隣接地にある町営の貸し農園も体験農村公園と連携し、利用客に宿泊や、自炊の場も提供する。利便性を
高?めてゆっくりと滞在してもらい、地域との交流を促す。大塚さんは「減り続ける人口を増やすのは難しいが、
?訪れる人を増やし、地域の賑わいを取り戻したい」と語る。
? 道教育庁の調べでは、道内の公立小中学校の廃校はそれ以前の6年間で275校。うち、旧校舎の再利用例は
?5割にとどまる。少子高齢化の象徴である廃校。ピンチを逆手に、地域の賑わいを取り戻せないか。全国の過
疎地?が抱える課題に、東裏地区の人々も挑もうとしている。
|