誤差0.1ミリだわる技術 2006年1月28日 北海道新聞
家具職人には、製作だけを行う人と、デザインから製作までを一貫して行う人がいる。家具工房「旅する木」(札幌市東区)の須田さんは、依頼者の要望を聞きながら注文家具をデザインし、製作まで行っている。
長野県出身の須田さんは、大学で電気工学を専攻し、大手カメラメーカーに就職した。技術者として世界最小・最軽量のカメラの開発に携わったが、帰宅は連日深夜過ぎ。最先端技術の開発現場は活気に満ちていたが、「軽くて、小さいカメラが本当に使いやすいのか」と疑問が膨らんだ。
激しい開発競争で体力や気力が続かなくなった技術者の中には、品質管理の部門に移動となり、カメラの性能試験に従事する人もいた。朝から晩までシャッターを押し続ける先輩達の姿を見るにつけ、人間の生活に合った仕事がしたくなり、退職。27歳で、あこがれていた家具作りの道に飛び込んだ。
家具職人になるなら「学生のころから旅行で訪れ、大好きな北海道で」と、道立旭川高等技術専門学院の造形デザイン科に入り、木工の基礎技術とデザインを学んだ。卒業後は旭川市内の中堅家具メーカーに就職し、六年間、技術の研さんに励んだ。
須田さんは、カメラの開発に携わった経験が家具の製作にも生きたという。「お客さんからのクレームが許されないという点は、カメラも家具も同じです。コンピューターを使ったり、0.1ミリの誤差にこだわるのも苦になりませんでした」
かつて家具職人の育成は、かんなの削り方ひとつでも「親方の仕事ぶりを見て覚える」のが当たり前だったが、「今は新人には早く技術を覚えてもらい、早く独り立ちしてもらいます。そのように教えられますし、僕もそのように後輩に教えました」。
家具作りだけでなく、家造りも学びたいと、札幌市内の住宅メーカーに2年間勤務し、昨年10月に独立。住む人が納得できる家具作りを目指し、昨年10月に家具工房を開いた。
まだ従業員はおらず、仕事はすべて一人でこなす。口コミで少しずつ注文が入ってきた。「ものづくりの喜びを共有したい」と、将来は自分の家具を作りたい人のための木工教室を開きたいと考えている。
家具を買ってくれたお客さんの中には「お金をため、二年後に注文するから」と話す人もいる。「自分の家具を買うために、お金をためようと頑張ってくれる、この気持ちがうれしいです」
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