日刊現代 【北の創作人】 2010年5月25日
第18話 木のキッチンと須田修司
旅するように歩む家具の道
ありそうでない、そんなキッチンに出会った。木がふんだんに使われている、というだけではない。
水回りの天板には普通ステンレスを使うが、これも木製。特殊な塗料を使うことで耐水性を高めている。
「木にはステンレスを上回る良さがある」と、作り手の須田修司さん。実際キッチンに立つ時間が楽しく
なった、子供が積極的に手伝うようになったなどの声を聞くという。木には安らぎの場所を作り出す力が
あるのだ。
須田さんは、本州での会社勤めから、北海道に移住し家具職人へと転じた。こう書くと北海道に憧れる
移住者の典型のようだが、自分の置かれた現状をシビアに見つめていた。もちろん最初からそうだったので
はない。カメラの技術開発者だったときには、使う人間を置き去りにして機能だけを求めるようなものつく
りに疑問を抱いていた。家具という、使う人のサイズにあったものづくりをしていきたいー。その夢を叶え
るための移住だった。だが、旭川の工房で家具職人が置かれた厳しい状況を目の当たりにする。独立しても
家具づくりだけでは食べていけないのは当たり前、という世界。それに作ったものを使う人の姿がまったく
見えてこない。描いていた理想とかけ離れた現実に、独立する気力もすっかり萎えてしまった。
しかし、須田さんは気付いた。自分は家具というモノを作りたいわけではない。家具も含めた、心満たさ
れる生活そのものを作りたい。それには、家そのものから作る必要がある。須田さんは工房を辞め、独学で
建築を学び、札幌の工務店に勤めた。建築を通して、同じ思いの人が集まり、空間を作り上げることも知っ
た。そのうち、「自分は、生活のストーリを家具で作れば良い」と思いに至る。このときやっと、須田さん
は家具職人として独立を決心する。
現在工房は木工教室やカフェもあり、コミュニティースペースにもなっている。須田さんが考える”生活”
そのものを作ることが、着々と形になりつつある。
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