ありがとうの家具
一つ一つの家具には小さな「ありがとう」の文字。色の違う木片を埋め込んで作った。
「独立して2年、たくさんの人に支えられてきた。感謝の気持ちを込めた家具を見て欲しい。」
札幌東区で家具工房「旅する木」を営む家具職人、須田修司さんはこう話す。
6月24日から30日まで、初の個展を中央区紀伊國屋書店札幌本店で開く。展示するのは
テーブルや勉強机、クラフト作品など、約十点だ。
長野県出身の須田さんが大手カメラメーカーを辞めたのは、二十七歳の時。技術者として
世界最小、最軽量のカメラの最先端にいた。だが、激務続きで体力や、気力が続かなくなった
先輩の中には、性能検査部門に回り、一日中黙々とシャッターを切り続ける人もいた。
そうした生活に疑問を感じ、須田さんは退職。もの作りが好きだったことから、人の生活に
密着した家具作りの道を選び、旭川の道立の訓練校や、家具メーカーで基礎を学んだ。
独立するとき、周囲からは「食べていけない」と諭された。工房の家賃と工具の借金だけで
月三十万円近い出費。定期的な収入のあてはない。しかし、注文生産の工房は、不思議と仕事が
途絶えることがなかった。最近も「インターネットで見た」というニューヨークの米国人から
注文が入った。
ここまでこれたのは、自分を育ててくれた人、自分の家具を使ってくれる人達のおかげ、と
須田さんは思う。だから「ありがとう」という言葉を大事にしたい。「ありがとうと思いながら
作った家具は周囲を気持ちよく、癒される空間に変えてくれる」。その思いできょうも
家具作りに励む。(川村史子)
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