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弟子にします!
遅かりし桜前線が北海道を通り過ぎて行きました。
桜が咲くまで、その力を出すのを我慢していた初夏も、「ふ〜、やっと誰にも気兼ねせず、力を発揮できるぞ〜!」っといった感じで、北海道は暖かな日が続いています。日も長くなって、夕焼けも美しくなってきました。
GW前に一週間仕事をストップして製作した、自宅待機をしている当別町の全小中学生に、「少しの時間でも、もの作りに夢中になれる時間があってくれればな。」っと、プレゼントするために作った『お箸作りキット』が配られたという連絡が来ました。
当別町に小中学生は約900人いるんです。
お箸は1膳は、当たり前ですが、2本なので、1800本。
「1人1膳なんてちょっとケチくさいよな。1人2膳にしよう!」
なんてスタッフに言うと、
「無料でプレゼントなんですから、1膳でも全然いいんじゃないですか?」っと。
「アベのマスクですら2枚なんだぞ。」
なんて訳のわからない理由で、1人2膳、1800膳=3600本の棒の加工を始めました。
1000本を超えたあたりから、後悔が始まりました…(笑)
「まだ1/3もいってないのか〜」なんて。
でも、最初に教育委員会に話を持ちかけた時、わざわざ教育委員長室に通されて、教育長など3,4人の偉い方が話を聞いてくださり、その前で、「1人2膳作ります!」なんてカッコつけてしまった手前、今更「やっぱり1膳で…。」などと言い出せるわけもなく…
スタッフみんな、頑張ってくれました(笑)。
冒頭でも、教育委員会への説明でも、「自宅待機している子供達に…」などと格好の良いことを言ってますが、実を言うと、この企画を思いついた本当の動機は、そんなことではなく、木なんですね。
今回のお箸作りキットに使った木は、こんな物語がある木なんです。
以下、2018年11月13日のブログ(つむじ風通信)より抜粋
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ノンノ(北海道犬)とまる(黒柴)の散歩中、工房の東裏小学校のすぐ横の東裏神社でお参りするのが毎朝のコース。僕がお祈りをしている時、犬たちはお座りをさせているのですが、まあ、そんな大人しく座っているほど、賢い犬たちではないので、5秒も座ったら、「あっち行こ~!」とすぐに引っぱります。
この東裏神社には、木が数百本立っていて、ちょっとした森のようになていました。
なっていました…。というのは…。
先日の北海道胆振東部地震の前日の台風で、境内の周りの後ろの木が4,50本、倒れてしまったんですね。
信じられない光景でした。
神社の境内の後ろの木がすべて倒れて、境内が丸裸になってしまったのです。
あの台風のすざましさを思い出しました。
倒れた木はほとんどトドマツ。
トドマツ、カラマツは柔らかいし、節も多いし、ヤニもすごいので、まず家具では使わないんですね。
それでも木は木なものですから、倒れている木を見て回って、太い木を見つけると、何か作れないかな?っと想像していました。
地元の人が、全部チップにするため、輪切りにして木材屋さんに持って行く準備をしていました。僕も手伝ったのですが、やっぱり忍びない。チップにされてしまうなんて。それで、太い木数本に印をして、製材してもらうことにしました。
材料屋さんにお願いすると、言われました。
「トドマツなんて製材したってどうもならん。お金かけて製材する価値がないぞ。」と。
「トドだぞ。どうもならんぞ。」と何度も。
まあ、解ってるんですけどね。
僕も使い道があるわけではないし、むしろ、目をつぶって、チップにしてしまって、忘れてしまった方が楽だし、お金かからないし。
「そうですよね。じゃあ、やめときます。」
と言いかけたんだけど、ある光景が目に浮かぶんです。
これらの倒れた木、神社の境内を避けるように倒れていたんです。
一本残らず。本当に見事に、そして不思議なほどに。
おかげで境内は無傷だったんです。何十年も境内を囲むように成長してきたものだから、きっと、意思があったんでしょうね。
材料屋さんに
「御神木なのに、僕の犬たちが毎日オシッコひっかけてたので、せめて罪滅ぼししなきゃバチ当たっちゃう。」
なんてお願いして、製材をしてもらいました。
そして昨日、工房の庭で自然乾燥させるために、桟積みしました。
まだどう生かそうか、アイデアはないけれど、乾燥する一年後くらいまでには、何か旅する木の新たなブランドの道筋を立てるようなものを、この木で作りたいと思っています。
「製材する価値がない!」と言われた木で
「こんな価値が生まれたぞ!」という、価値のある物語りを作りたい。
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春になって、雪が解けて、庭で乾燥させていたトドマツが顔を出した3月、北海道は日本で最初に緊急事態宣言が出され、子供達は休校になりました。そして4月に再び。
我が家にも中2の息子が暇を持て余していまして。
このトドマツで子供達にお箸を作るキットをプレゼントして、子供達が楽しそうにお箸を作ってくれれば、使い道がなく、ほったらかしになっていたトドマツは、嬉しいんじゃないかな?
これがこのお箸作りキットの企画の始まりだったんです。
でも、これは説明が長くなって、面倒くさいし、『木が喜ぶ』なんていうのも、怪しい話しだし、実際に喜んでいるのかなんてわからないし…
人には「子供たちのために」ということにしています。
なので、いろんな人にこの企画を褒めたもらったり、教育委員会は、贈呈式をしたい。なんて大袈裟に捉えられると困ってしまうのです。
こういうのって、やりたくなかったり、面倒くさい子供達には、迷惑なことでもありますもんね。
あくまで自己満足なので。
でも、作った子供から、
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おはし作り、楽しかったです!僕は、家具職人になりたいです。
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こんな嬉しいメールを頂きました。
たった一行のメールを、何度も読んでは、ニッコリしてしまってます。
この子がいつまでこの思いを持ち続けるかはわかりません。例えいっ時でも、お箸を作ってみて、何かが芽生えたんだと思うと、作ってよかったなぁ。と思います。
旅する木はコンセプトの一つに、
『表現者であること』
と掲げています。
そして、僕が思う”表現者”とは、
”その表現したものを体験、体感した人の心を1ミリでも動かすこと”
「価値がない」と言われた木で、1人の子供の心に”夢”という価値が生まれた。
モノクロだった、台風で倒れた木々の風景と、黙々とひたすら同じ作業を繰り返した僕たちのお箸作りの日々に、ぽっと明かりた灯ったような気がします。
彼に一言、返信しました。
「弟子にします!」