それはそれは優しい森でした | 札幌のオーダー家具・オーダーキッチンなら家具工房【旅する木】

PAGE TOP

BLOGブログ

それはそれは優しい森でした

それはそれは優しい森でした。
ずっと歩いてみたかったんですよね。白神山地のブナの森を。
やっとその夢が叶いました。
今、白神山地に一人旅に来ています。

家具作りの仕事が一段落したから、ブナの森を歩くだなんて、どんだけ木が好きなのよ!っと自分でも笑ってしまいます。

ブナの木の特徴はですね…

例えば、晴天の日に、日の光を全身で受け止めたい!って思った時に、どうしますか?

太陽に向かって、顔を上に上げて、精一杯、両手を広げて、日の光を受け止めようとしますよね。
これがブナの木なんです。

さらに、雨の日に大きめのバケツを渡されて、「あなたの身体を使って、このバケツいっぱいに水を溜めてください。」って言われたらどうしますか?

誰にも見られていなかったら、裸になって、両足をバケツに入れて、両手を少し斜め上になるように精一杯広げて、指は少し窪みを作る感じで上に向けて、全身で受けた雨水を身体を伝わらせて、足元のバケツに溜めると思います。
これがブナの木なんです。

枝を広く広げて、楕円型の葉をいっぱいにつけて、雨の水を受け止めるんですね。
そして幹の表面は、雨水が伝わりやすいようにツルツルで、たくさんの水を根元に集めて、いつでも根っこが十分な水を吸い上げられるようにするんです。

一本のブナの木の保水量は、1000リットルもなるんですって。
その水を根っこが吸い上げて、葉っぱに届けて、呼吸によって、大気に放たれるので、ブナの森はみずみずしくて、マイナスイオンたっぷりなんです。

今日、ブナの森を歩いている時、自分のほっぺを触ってみると、本当にとってもしっとりとしていて、赤ちゃんの肌みたい!っと思いました(笑)。
赤ちゃんの肌に戻りたい方、ブナの森の歩くことをお勧めします!

晴れた日には、目一杯日の光を、雨の日には、目一杯雨水を受け止める
それがブナの木なんです。

ブナ
漢字で書くと

こんな風にブナはたくさんの水分を含んでいるので、腐りやすく、薪にもならないので、役に立たない木の代名詞とし、”木”辺に”無”と書いて、橅という漢字になったんです。

家具の材料としてのブナはどうかというと?

そう。
これが僕が白神山地に来た二つ目の理由。
こんな風に書くと、お!旅する木は今後、ブナを使った作品を展開するから、その品質の確認とか、取引先との交渉とかのための視察か?なんて思うかも知れませんが、全くそんなことではありません。

製材されたブナの板は、白木で、表面に特徴的な小さな斑点模様があって、それはそれは美しい木なんです。
創業して間もない頃、そんなブナの木でテーブルを作ったんですね。見惚れてしまうくらい美しいテーブルが完成し、納品しました、そしたら半年後、天板は反るわ、脚は捻れるわ、大変な目にあいました。
水分を溜め込んでいた木の繊維が柔らかくて、動きやすいんですね。

せっかく日本初の世界遺産である白神山地。世界一のブナの森に行くのだから、文句の一つでも言ってやろう!っと(笑)。

ヨーロッパにも広大なブナの森はあるんです。
ちなみに北欧では、役に立たないという評価はされていなかったようです。

昭和を感じる喫茶店でよく見られたトーネットの椅子は、繊維の柔らかいブナの特徴を利用して、曲木加工をして、ブナでしか表現できないデザインを生み出しました。
『世界で一番売れた椅子』っと言われているくらいなので、きっと誰もが一度は見たこと、座ったことがあるのではないですかね。

ブナの説明が長くなりました!
僕が木のことを語り始めると、こうなります…

あ〜、でももうちょっと語りたい!

ナラはお父さんの木、ブナはお母さんの木というイメージを、僕は持ってるんです。これはあくまで、僕の個人的な感覚、感想なんですけどね。

厳しい環境でも、孤高に力強く生きるナラに対して、一人では生きられず、コミュニティを作って助け合いながら、生きるブナ。

製材して板になった時に現れる、虎斑(とらふ)という力強く、豪快な模様を持つナラに対し、細かく繊細な斑点模様のブナ。

立木の時の幹の表面も、ナラは黒っぽくてゴツゴツしてるのに対し、ブナは白っぽい樹皮で、表面はツルツルしている。

硬くて重くて、実直という言葉が似合うナラに対し、柔らかくてしなやかで、瑞々してくて優しいブナ。

そんな優しい母親のようなブナの森は、葉っぱを通った優しい光が差し込んで、森の中なのに明るくて、本当に心地よく、穏やかな気持ちになります。

森の中には、同じブナでも、いろんな木があり、想像力を掻き立てられます。

大きな老木は今、せっせと葉を落とそうと必死。
雪が降る前に全ての葉を落としてしまわないと、積雪の重さに耐えられず、命に関わる。

その横で、ひ弱な若木は、ここぞとばかり、青々とした葉を広げてる。
なぜかって?
老木が葉を落として、今までにないほど差し込む日の光を受け止めて、成長するチャンスだから。

なんたが老木が優しく話しかけてるみたい。
「坊や、今のうちににいっぱい太陽の光を浴びるんだよ。でもね、雪が降る前にはちゃんと葉を落とすんだよ。じゃなかったら危険だからね」なんて。


同じくらいの年で隣同士なのに、落葉を始めてる木、まだまだ青々としている木もある。木にも性格があるんでしょうね。
「君は心配性なんだね。それに対して、君は楽観的、ギリギリまで行動しないタイプなんだ。俺もそっちタイプだよ」

一人というのはとってもいい。恥ずかしくもなく、こんな風に木と話をしながら歩ける。

なんだか心の底の方がじわーっと満たされていくのを感じながら歩いていると、昔、ある人と交わした会話を思い出しました。

僕の「将来、どうなりたいですか?」っという質問に、その人の答えは「ずっと笑っていたいです」

この答えに、僕はハッとしました。

ずっと笑っているために、人は何者かにならなろうとしたり、人よりお金や物を持とうとしたりして、結局、ずっと笑顔でいられなくなってしまう。その矛盾を知りながら、そのサイクルから抜けられないでいる。
結局いまだに僕もそう。
だから仕事に疲れて、優しいブナの森に抱かれたいと思って、白神山地までやってきたのかも知れない。

腰掛けるのにちょうどいい切り株があったので、一休み。
ペットボトルの水を一気飲みして、ハアハアする呼吸を整えた後、すぐ隣に立ってるブナの老木に話しかけました。

「あのさ、ずっと笑っているためには、どうしたらいいと思う?」

「…」

「なんか答えてよ、何百年も生きてるんでしょ?この森なんて、何千年でしょ?」

っとその時、上空に風が吹いたのだろう。
ボツボツボツっと大きな音を立てて、いくつものブナの実が落ちてきました。

熊かと思ってビビった僕をあざ笑うかのように、ブナの老木は知らんぷりして立ってる。

「そういうこと?」

『晴れた日には、目一杯日の光を、雨の日には、目一杯雨水を受け止める』

「ずっと笑っていたいです」
その答えを見つけたような気がした。

あ、そう言えば、
「あのさぁ、ちょっと君に文句言いたいことがあるんだけど…」

やっぱりブナの老木は知らんぷりして立ってる。

「まあいいや」

 

お誕生日、おめでとう。笑顔でいられる一年でありますように。